スリジエセンター1991

今年13冊目。

スリジエセンター1991

スリジエセンター1991

ブラックペアンシリーズ完結巻にして、その他全てのシリーズの始まりを描いている。それゆえ是非既刊シリーズは全部読んでから読むべき。
高階先生が必殺・丸投げを修得したシーンとか、速水先生がジェネラルとなったあの日の裏側とか、世良先生や彦根先生の出発点、ついでに若き日の村雨知事とか見どころがいっぱい。

「以前、私は公開手術はサーカスだと申し上げましたが、訂正したいですね」
天城が目を細めてうっすらと笑う。
「ほう、ようやくクイーン高階にもご理解いただけたかな」
すると高階講師は立ち上がり、天城を睨みつけて言う。
「逆です。こんなもの、サーカスですらない。下品な大道芸です」
天城はとろけるような笑顔で応じる。
「クイーンは私のことがとことん嫌いのようですね」
「今日は、無垢な聴衆をうまく丸めこみましたが、あなたの本質は、カネで患者の扱いを変える差別主義者です」
高階講師は吐き捨て、天城をまっすぐ見据えた。
「第一ラウンド、私の仕掛けはことごとく無効化されてしまいました。だがこれは小手調べ。ここからが本番ですから、お覚悟を」
(p.143)

天城先生VS高階先生、スリジエセンターを巡る争い。
後のシリーズを読んでいるので、この戦いの勝者がどうなるのか、スリジエセンターが無事に設立できるのかは分かっている。
結果は分かっているんだけれどもそこへ至るまでの道筋がものすごく興味をひいて面白い。
これはやはりひとえに、本筋であるバチスタシリーズの主人公である田口・白鳥よりも魅力的に感じられる世良・天城コンビ、そして敵役である高階先生のキャラクターによるものなんだろうな。
そんな魅力あふれる天城先生と世良先生の別離は、まさに天城先生にはこういう終わり方しかないと納得できるものだった。これには世良先生ならずとも思わず涙。

――ジュノ、革命は成功すると思うかい?
――たぶん、ジュノの言う通りなんだろう。だが本当にそうなのかな?
――忘れたのか?革命とはこころに灯った松明の火だ、と言った私の言葉を。
――ジュノの中では、私という松明の炎が今なお、こうして燃え続けているではないか。
(p.409-410、一部抜粋)


おまけ

「私はA社では愛されなかった。ささいなことに反発され、刃を向けられ、足を引っ張られる。患者を治すため、力を発揮できる環境を整えようとしただけなのに関係ない連中が罵り、謗り、私を舞台から引きずり下ろそうとする。私はそんな会社に愛想が尽きてしまったんだ」
(p.367、一部改変)