大本営参謀の情報戦記 読了

nohmin2010-04-27

今年27冊目。
おじさんから借りてきたシリーズ第3巻。

情報なき国家の悲劇 大本営参謀の情報戦記 (文春文庫)

情報なき国家の悲劇 大本営参謀の情報戦記 (文春文庫)

日本陸軍大本営で末端参謀として活躍された堀大佐が「組織において情報というものがいかに大切か」を著した本。
著者の経歴から当然に戦争における情報の重要性を淡々と描いているわけだが、著者自身が記している通り現在の企業活動に置き換えて読むこともできる。

本文中では再々、戦略・戦術・戦場という昔の軍隊用語が出てくるが、もし企業の方々が読まれる場合には、戦略は企業の経営方針、戦術は職場や営業の活動、戦場は市場、戦場の考察は市場調査とでも置き換えて読んでくだされば幸甚である。
p.6


米軍は昭和二十一年四月、『日本陸海軍の情報部について』という調査書を米政府に提出している。その結語のなかの一節をまず紹介しておかねばならない。
「結局、日本の陸海軍情報は不十分であったことが露呈したが、その理由の主なものは
(1)軍部の指導者は、ドイツが勝つと断定し、連合国の生産力、士気、弱点に関する見積りを不当に過小評価してしまった。(註、国力判断の誤り)
(2)不運な戦況、特に航空偵察の失敗は、最も確度の高い大量の情報を逃す結果となった。(註、制空権の喪失)
(3)陸海軍間の円滑な連絡が欠けて、せっかく情報を入手しても、それを役立てることが出来なかった。(註、組織の不統一)
(4)情報関係のポストに人材を得なかった。このことは、情報に含まれている重大な背後事情を見抜く力の不足となって現われ、情報任務が日本軍では第二次的任務に過ぎない結果となって現われた。(註、作戦第一、情報軽視)
(5)日本軍の精神主義が情報活動を阻害する作用をした。軍の立案者たちは、いずれも神がかり的な日本不滅論を繰り返し声明し、戦争を効果的に行うために最も必要な諸準備を蔑ろにして、ただ攻撃あるのみを過大に強調した。その結果彼らは敵に関する情報に盲目になってしまった。(註、精神主義の誇張)」
pp.327-328

戦争の経過に関する部分は予備知識が皆目0に等しかったためか読むのに多少の努力を要したけれども、言いたいことだけは分かった。
終始一貫して「情報というものがいかに大切なのか」という事例が繰り返し繰り返し出てくるのである。
このことは戦争であれ、企業活動であれ、そして学会発表であれ食料の買い出しであれ、どんな場面においても同じなのではないだろうか。
自らの身を守るためには、やはり「兎の耳*1」こそが最高の"戦力"なのである。

*1:著者がドイツで読んだある本の中に「兎の戦力は、あの速い脚であるのか、あの大きな耳であるのか?」といった設問があり、答えは、以下に兎が早い脚を持っていても、あの長い耳で素早く正確に敵を察知しなかったら、走る前にやられてしまう。だから兎の耳は、兎にとって自分を守るための最重要な戦力だというのである(p.328)。ということで、常日頃からできる限り多くの情報を集めておく『情報力』を例えて「兎の耳」としている。