握る男 ★★★★★

今年83冊目。

握る男 (角川文庫)

握る男 (角川文庫)

昭和56年初夏。両国の鮨店「つかさ鮨」の敷居をまたいだ小柄な少年がいた。抜群の「握り」の才を持つ彼の名は、徳武光一郎。その愛嬌で人気者となった彼には、稀代の策略家という顔が。鮨店の乗っ取りを成功させ、黒い手段を駆使し、外食チェーンを次々手中に収める。兄弟子の金森は、その熱に惹かれ、彼に全てを賭けることを決意する。食品業界の盲点を突き成り上がった男が、全てを捨て最後に欲したものとは。異色の食小説誕生。

どんな手を使ってでも目的を達成する貪欲さを持ったゲソと、彼に見いだされて魅入られた金森の成り上がりと凋落を描いた話。
両国に国技館が戻る4年前、昭和56年から始まって、バブル崩壊を経て、失われた10年と言われる平成20年頃までの30年弱を背景にしたビジネスの話が展開されるので、経済小説のような読み心地もある。
色々な人物が彼らの前に現れてキンタマ(=弱み)を握られたり手駒にされたり排除されたりしていく中で、ゲソや金森を含めてほとんど全員が立場も想いも劇的に変わっていく展開がスピーディかつ迫力があって読むのを止められなくなる。
その一方で、親方や川俣らによって変わらないことの平穏や、例え変わっても失くしてはいけないものの大切さも同時に描かれているのが印象的。