異星人の郷 読了

今年2、7冊目。

異星人の郷 上 (創元SF文庫) (創元SF文庫)

異星人の郷 上 (創元SF文庫) (創元SF文庫)

異星人の郷 下 (創元SF文庫) (創元SF文庫)

異星人の郷 下 (創元SF文庫) (創元SF文庫)

黒死病の影が忍び寄る中世の生活と、異なる文明を持つ者たちが相互に影響する日々を克明に描き、感動を呼ぶ重厚な傑作!」


妻ちゃんが昨年の誕生日プレゼントとして買ってくれた本達のうちの一冊。
「異星人が中世ドイツの村に漂着する。異星人は遠い故郷に帰れるのか。涙なしには読めないらしい」とは撰者の一言。
今までほとんど手を出していなかった外国作家のSFモノ。
正直言って大変読み辛い。それは外国作家だからなのか、翻訳がまずいのかのどちらかだと思っていたが、どうやら作者本人が読み辛くなることを承知の上で書いた節もある。
本文後付けにある「歴史に関する注記」で作者自ら「作中では十四世紀中期のラインラント地方の状況をできるだけ正確に描くよう努めたが、二十一世紀初期のアメリカ人にとって、これは簡単なことではない。時代的にも場所的にも、我々の考え方とは世界観が全く異なっているのだ。」と記している。
こう言われてみればそれはその通りで、実際「現代パートはそこまで読みにくいわけではないし、異星人視点で見た部分についてもあまり違和感はない。だから中世の村人の言ってることは全部理解しようとせず、そういうものなんだとスルーしていけばある程度読みやすくなるね」と上巻を読み終わる頃オイラが妻ちゃんに話している。


で、本題。
その読みにくい部分を差し引いたとしてもオイラが最後まで気に食わなかった大きな点が一つ。
冒頭に引用した紹介文に「異なる文明を持つ者たちが相互に影響する日々」とある。
異星人たちがキリスト教に感化され、その教えを受け入れて慈善の心に目覚めていく話の筋はいい。
だがドイツ人達はどうか?異星人たちと交流してどう変わった?一部の人々は確かに彼らの存在を受け入れはしたが、それだけではなかっただろうか?受け入れたというよりも自らのキリスト教的解釈に彼らの存在を組み入れたとする方が正しいか。基本的な考え方や生き方を揺さぶられたような登場人物は見当たらない。
まさにこれこそキリスト教徒たちの傲慢さを正確に描いていると納得すらしたくらいだ。こういうスタイルでヨーロッパ人達は近代において植民地政策を行い、世界をその支配下に置いていったんだよなと思わずにはいられなかった。
やっぱりオイラはキリスト教を初めとする唯一神教は好きになれないなぁ。


現代パートにも不満で、なんだか無理矢理感が強い。
結局なんでこの村はブラックボックス化してしまったのか、元々トムがこの村に興味を持った根本の部分が解決されていないままではないか?ペストのせいということであれば、他の地方との差別化にならない。
唯一の差異は異星人の存在なんだが「悪魔がいるから近寄らない方がいいよ」って噂を流布したから、では説明になっていないと思う。


結局楽しめたのは、異星人たちがほとばしる個性を発揮しまくってありとあらゆる場面で中世の人々を驚かせる部分に限る。
キリスト教の教義に感化される者、されない者。上下関係への従属から解放される者、されない者。故郷への哀愁、仲間に対する自己犠牲。そうした違いから生み出される彼らの行動の変化は面白かったですよ?ブワ、ワ。