脳卒中治療ガイドライン改訂に関する勉強会

ヒルトン料理目当てに妻ちゃんと一緒に医師向け勉強会に突撃!
講演は普通に製品紹介のあとに2人の先生による特別講演の3部構成。

  • エパデール製品説明

持田主催ですから。
JELISの結果を受けて脳卒中治療ガイドライン中でスタチンへのEPA上乗せが推奨されたことを周知してもらうことが狙いだしね。
普通こういう勉強会での製品説明ってサラッと終わるものなんだけど、なかなか力が入っていて、飽和/不飽和脂肪酸とその代謝経路からしっかり説明があったよ。
一つ新しく覚えたのは、EPA/AA*1比がCVD予測因子になり得るということで、LDL低値なのに虚血性疾患発症例ではEPA/AA低値のケースが少なくないということ。
EPA/AA比は通常の血液検査と一緒に行えて保険請求も利く手軽に行える検査だから1年に1〜2回やってみてもいいんじゃないですかという提案にいくところは医師向け勉強会故なんだけど、薬局薬剤師の立場から見ればLDL低値で虚血性心疾患既往患者にはEPAサプリを奨めてみるのもよいんじゃないかというところへ行きつくわけだ。
薬事法を受けてOTC販売、もとい、セルフメディケーションの推進を薬剤師が担うことを要請されるようになっている今、少しずつOTC販売に手を出すのであればこういうEBMを勉強して実践すべきなのだろうね。

これは外科ベースの話なので薬局薬剤師の業務にはなかなか適応が難しかった…
ガイドラインではこうこうこういう風になっているが、じゃあこういうケースではどうすればいいのか」
という質問に対して、講師の先生が
ガイドラインエビデンス集であり、治療法を規定するものではない」
という当たり前の答えを返していたのにはハッとさせられた。

一方こちらは内科ベースの話でなかなか興味深かった。
「DM患者の脳卒中の一次予防のためにはBSコントロール(グレードC1)よりもBPコントロール(グレードA)の方が重要」
これ意外だったなー。DM患者なのにBSよりBPが大事なんだよ!
あくまでも脳卒中の一次予防に関して、だけど。
ちなみにもちろんCho管理も重要で、これもなんとBS管理より重要。
裏返せば脳卒中予防のためにBPやChoがいかに大切かということでもあるか。


「MEGA studyにてLDL-Cを18%低下させたところ、冠動脈疾患、脳梗塞発症とも減少、脳出血は有意差なし。閉経後女性やHT患者、DM患者を対象にしても結果は同様。脂質管理は冠動脈疾患予防効果よりもむしろ脳梗塞予防効果の方が高い傾向あり」
「一方、脳卒中orTIAの二次予防を検証したSPARCL試験では、脂質管理は脳卒中予防効果よりも冠動脈疾患予防効果の方が高い」
とりわけ頸動脈狭窄患者へのスタチン投与は冠動脈疾患発症を42%も減少させるというのはすごいね。
意外だったのは脳出血既往患者へのスタチン投与は脳出血再発リスクを6倍にするというもの!
これは我々も覚えておいてよいのではないだろうか。
もちろん脳出血既往患者にスタチンが禁忌というわけではないし、これをもって疑義照会してスタチンを変えさせるということをやるべきではないのだが、スタチンが処方されてる患者に脳出血既往があったら、再発の兆候をこまめに尋ねておくのは重症化予防に役立つことができるんじゃないかな。
ただし、SPARCLはリピトール80mg/dayでの試験なので日本での治療にはすぐに適用しにくい。*2
これを受けてメバロチン10mg/dayで行われているのがJ−STARS。
こちらも実薬群でhs-CRP低下やIMT増大抑制などの好ましい結果が出つつあるらしい。


さて持田本命のJELIS試験。
「EPAによる脳卒中既往患者の再発抑制作用は(ギリギリ)有意差あり。出血性脳疾患も予想に反して減少傾向。ちなみに一次予防効果については虚血・出血両者とも有意差なし」
EPAで出血性脳疾患が減少傾向となることはほんとに予想外。
「低HDLは脳血管イベント再発リスクとなるが、EPA投与によりHDLの多少による再発リスク差が消失する*3
これはJELISも治療ガイドラインも原文を見ていないから分からないんだけど、EPA投与でHDLが増えるの?それとも低HDLは改善しないんだけどEPAの作用で再発予防できてるの?
いずれにせよ低HDL患者についてはEPAサプリメントを奨めてみるのもよいのではないか。


おまけとして最近の研究で、魚油大量摂取群で白血球のテロメア長短縮抑制がみられたという報告があり、EPAにアンチエイジング作用があるのかもしれないというお話も。

今日のお勉強会は閉会の挨拶まで収穫があり、神経内科分野においてALSやアルツハイマーでも脂質管理が重要になるかもしれないことを示唆するデータが出始めているらしい。
今後の治療指針が大きく変わってくるかもしれないですね。

*1:AA=アラキドン酸

*2:そのため脳卒中治療ガイドライン2009ではスタチンによる脳卒中再発抑制効果はグレードBにとどまっている

*3:低HDL(HDL<49)患者に対してEPAを投与すると再発リスクが30%低下する