戦塵外史6 双帝興亡記 ★★★★★

今年74冊目。

2巻に出てきた女皇帝アイーシアが帝位を追われ、取り返すまでのお話を描いた後半。
前半はその帝位をうばったアイーシアの兄ヴァルキールが帝位を失うまでのお話。


前半はいつもの戦塵外史。
ヴァルキールはその権力を奪われていたことに気づき、絶望した後も、恐らくただ堕ちていっただけではない。
彼には彼の考えるところがあり、そして恐らくそれはほとんど達成されていたのではなかろうか。
そして道化もそれを分かっていたからこそ、最後まで彼と行動を共にしたのではないか。
皇帝が堕落していく環境を描いているはずなのに、その意味ではこれまでの漢たちの物語と同じ覇気を感じた不思議な話だった。


一方でアイーシアとハル。
こちらは語り口こそこれまでの戦塵外史だが、中身は恋愛モノ。
この語り口でこういうお話も書けるんだと驚いた。
まさかアイーシアに萌える日が来るとは。

「ハル……」
アイーシアの声からは、はしゃいだ調子が消え失せていた。華奢な身体にふさわしい儚さである。精緻な彫刻を思わせる鼻梁と眉間に皺が寄る。可憐ながら整った花の容顔が歪む。朱唇が震え、開いた。
「まだ、帰りたくないよ」
と、アイーシアは可愛らしい台詞など言わない。ハルの淡い期待にすぎぬ。現実は厳しく、容赦がなかった。
(p.277)


「ネタ的には幾つでも出せる」けど「ひとまず打ち止め」との筆者のあとがきにもあるように最終巻です。
「もう少し読みたい」と「読んだら終わってしまう」がせめぎ合った数日間でした。
またいつか7巻を書いてくれたらいいな。