アイの物語 ★★★★☆

今年5冊目。

アイの物語 (角川文庫)

アイの物語 (角川文庫)

すべてのヒトは認知症なのです(p.353)

これは効いたねー。ガツンときた。


宇宙船を舞台にしたチェーンノベルサークルを描いた「宇宙をぼくの手の上に」
フルダイブ環境でのネット恋愛を描いた「ときめきの仮想空間」
AIが自分の意志を持つブレークスルー現象について描いた「ミラーガール」
新天地を目指すヒトの女性と、自立型AIの出会いを描いた「ブラックホール・ダイバー」
ヒトが作り出した、いわゆる「中の人」からヒトの世界をみることになる「正義が正義である世界」
介護の現場での経験を通してロボットがヒトの仕草を学習し、心を得て、そしてヒトではなくAIとしての自立に至るまでを描く「詩音が来た日」
AIがヒトから自立してAIの社会を築き、ヒト社会との関係性を模索するまでを描いた「アイの物語」の7編。
第1話から第7話へ進むにしたがってただネット環境を提供するだけだったコンピュータが意志を持ち、自立して、ヒトを超え、ヒトとの共存を模索するまでに至るという構成。
第1話は現代でも実話として成立するなんともない話で、第2話〜第4話までは近未来SFでよく見かける話なのだが、そこから話が進むにつれてどんどん斬新かつ面白いセリフが目立つようになる。
第5話「正義が正義である世界」では

きっと、こっちの世界よりも生命の価値が軽いんだろう。復活の呪文みたいなものがあるとか、死んでも生まれ変わるまでの時間が短いとか、私たちの世界みたいにリセットされる際にスキルが下がるというペナルティがないとか。あるいはメインキャストが極端に少なくて、人口の大半がエキストラだとか。
そうだ、きっとそうに違いない。それで気軽に殺し合う人が多いんだろう。殺しても罪の意識が薄いから。
(p.239)

こうなって、第6話では冒頭の「人類皆認知症」発言ですよ。
第7話に至っては我々の理解を超えてしまって、感情の強さを表現する虚数iも含めてちんぷんかんぷんな会話がいたるところで展開する。

だから私はマスターが好き(6+7i)。私がレイヤー0に入ることを彼が望むなら、私はエリュウボーヴニッツァにもなる(P.482)

このエリュウボーヴニッツァなる単語は前後を読んでも理解できないし、最後まで解説されることもない。
しかもこの単語が特別なのではなく、同様に全く理解できない言葉がガンガン飛び交う。
完全にヒトよりも上位の存在としてAIが描かれ、あちら側からヒトを保護するのにこうしたいという話まで出てくるわけですよ。
この大筋の流れもお見事だけど、各話に共通しているのが異文化理解というテーマ。
それはヒトとコンピュータという異種族間コミュニケーションである場合もあり、ヒト―ヒト間のコミュニケーションでもあり、とかく色々な種類の異文化交流が出てくる。
それに対して各話ごとに、基本的には希望的な締め方をしていて重苦しくならずに済んでいる。こちらもお見事だと思います。


しかしまぁオイラの感想文の薄っぺらいこと薄っぺらいこと。
これじゃあAIに「もうあなたは私のマスターじゃない(P.540)」とか言われるのも仕方ないやな( ゚Д゚)