ばいばい、アース

今年78冊目。

ばいばい、アースIV 今ここに在る者 (角川文庫)

ばいばい、アースIV 今ここに在る者 (角川文庫)

筆者自身が「主題と世界」の構築と発見に特化して修練するための作品だったとあとがきで語っている通りというべきなのかどうなのか、細かい哲学的なところはよく分からなくても独特の世界感にはどっぷり浸かれる長編でございました。
最終巻では主人公であるベルが自分という存在にしっかりとした自信を持ち、剣士としても女性としても一気に開花してしっかりとした存在感を示すようになった。機械仕掛けの神デウス・エキス・マキナとともに崩壊し、不確かで不気味な世界に変貌していく中でも物語がちゃんと進んでいくのはベルが物語の芯となっていたからであって、これはベルがフワフワしても周囲の世界がしっかりしていたからこそ物語が進んでいた前半とは真逆の構図になっていた。そのことがより一層ベルの成長を感じさせてくれたように思う。

「消えろ、亡霊ども!私はお前たちに飲み込まれるには、あまりにも生きてここにいるぞ!」(p.355)

ベル以外ではキティ=<賢者>ザ・オールがセリフも演算魔法マスマティクスもかっこいい!キティは長耳族ラビッティアとのことなのでウサギなんだろうけど、そのクールな態度が「猫の恩返し」のバロンみたいなイメージ。

あちこちで影法師たちが弾かれたように倒れ込んだ。天井に広がる演算が、ばちっと激しく火花を散らせ、まるで雷光のように光の糸のようなものが駆け巡った。
一瞬だった。一気に空間が明るみにあてられていた。輝かしい光が降り注ぎ、それが宙で刃の形を取ると、影法師どもをなますのように切り裂いていった。
「我が新生せる力、さあ、存分にごろうじろ!」(p.17)

ついでにもう一つ。教示者エノーラ刻印スペルにENOLAと振った*1ところと、アドニスのNOWHERE(=不在)と刻印された剣を叩き斬ってNOW HERE(=ここに在る)になったところなんかはもう、ただただ「上手いなぁ、上手すぎるわー」と感心するしかなかったよ。

*1:ENOLAを逆読みすればALONE。上に立つ者の孤独を見事に表している