未来の二つの顔

今年57冊目。

未来の二つの顔 (創元SF文庫)

未来の二つの顔 (創元SF文庫)

人工知能を研究しているダイアー博士は研究中止命令の内示を受けて愕然とする。月面の工事現場で、コンピューターが勝手に下した誤った判断のために、大事故が起きたのだ。人工知能に仕事を任せる事の是非をめぐって論議がわき起こる。そのときダイアーが提案した実験とは……。ハードSFの第一人者ホーガンの待望の巨編!

本書のテーマはAIは生存本能を持ち得るか、もっと単純化すれば「機械は自律思考し得るか」ということになる。
その確認のために行われる壮大な環境実験。
機械の進化がもたらす可能性と、その裏について回る危険の二面性がいつものホーガン節で語られる。
最も驚くべきことはこれらの内容を30年以上も前に書き上げたことで、クリフトがデスピサロザラキを連発するようなAIですら10年後まで存在しなかったというのに、現代の更に先まで見越したこのアイデアを思いつき、現代の知識を持って読み進んでもディテールに違和感を抱かせないというのは並大抵のことではないだろう。
「最終的に自律思考するようになったとしても、生存本能獲得までの過程が異なる以上、その思考の道筋も人類と機械では異なるはずであり、そこを理解し合うのは不可能だろう」という仮説も非常にリアルで納得がいった。
すなわち機械が自律思考できるようになったとしても、どこまでの仕事を機械にやってもらうかという案件は非常にデリケートな話であり、機械という異種族との共存についてはこの物語の更に後で解決していかないといけない問題として残されているのですよ。