今年101冊目。

コンピューターが角度と打球の速度を計算したような、いかにも神宮寺らしい打球だった。高々とあがった打球がライトスタンドのポール際、最前列に吸い込まれる。神宮寺は一塁の手前でスピードを落とし、左手を右手にそっと添えた。歩くようなスピードでベースを一周し、いつもと同じように右足のつま先でホームベースを軽く踏む。スタンドで怒号と嘆息が渦巻いたが、ほんの少し怒りの声の方が大きいようだった。「まだ勝ってるんだぞ!」という野次がすぐ近くで聞こえる。それこそがファンの気持ちを代弁するものであるはずだった。
その希望を、意思を沢崎が挫いた。四万人を超えるイーグルスファンを沈黙させた。
またも初球だった。右方向に打ち返した鋭い打球が、ライト最深部でフェンスを直撃する。沢崎は一気に二塁を回った。速い。最近は無理に盗塁しないが、元々沢崎は足の速い選手だし、ベースランニングの技術には定評がある。藍川はいつの間にか立ち上がり、声にならない声を上げていた。走れ。死ぬ気で走れ。スピードを落とすな。このまま一気にホームを走り抜けろ。

いつもの堂場さんらしく、実力はあるが妙にプライドが高く、孤高の男が主人公。
そしてそのライバルたる神宮寺がクールでナイスキャラ。かっこえぇ。
背後で暗躍する藍川と、そして仮面をかぶった沢崎の両主役がどちらも小さいので、中盤までの読み味はあまりよろしくないが、神宮寺がでばってきて沢崎が仮面を脱ぎ棄てる辺りからが痛快。
この流れは「チーム」や「ミス・ジャッジ」と同様の堂場さん節ですね。