盤上のアルファ

今年77冊目。

盤上のアルファ

盤上のアルファ

本書のタイトルとなっているアルファというのはニホンオオカミの群れのトップに立つ個体のことだそうで。
「盤上の」ともあるように本書のアルファは真田であって秋葉ではない。
最終盤では真田がそのアルファポジションに相応しく、大切なものを勝ち取っていく。
一方で、そのアルファたる真田よりもむしろ主人公ポジションとして描かれている秋葉も一歩一歩前進していく。
秋葉には申し訳ないが、アルファではない秋葉にはとりあえず作中限定でもいいので何一つとして得てほしくなかった。
そうしたバッドエンドともいえる終わり方でかっこよく終わらせるのは難しかったのかもしれないが、それくらい厳しく描いていただければ、作品全体の迫力も増したであろうし、ニホンオオカミの記述がより活かされたのではなかろうか。
ちなみに思いっきり非難してるみたいな書き方だけど、作品自体としてはそれほど嫌いではない。

「それは分かっとる。俺の足は臭う」
「自覚してるんやったら、何でソファーに正座してるねん。臭い移るやろが」
「大丈夫。ファブリーズが助けてくれる」
(p.152)

一人一人のキャラクタは偏屈なのばっかりで微妙なんだけど、この変な奴らがからむと面白い。
引用シーンしかり、クリスマスイブのシーンや女流王位戦直後のシーンしかり。
そうやって変人たちに自らのプライベートを侵食されてうろたえる秋葉も、一大決心を前にしてひよりまくる真田も、どちらもかわいい一面を持っていて、3章以降では親しみが持てる。
そういうドタバタをメインに据えて書けば、それはそれで全然違った雰囲気になるだろうけど面白かったのかもしれない。