睡眠医療第4巻増刊号 読了

今年55冊目、くさい本32冊目。

睡眠医療 3ー4 特集:睡眠障害・疲労とうつ

睡眠医療 3ー4 特集:睡眠障害・疲労とうつ

ロゼレム発売記念に上で紹介してる本のロゼレム関連部分*1を抜粋したものを武田のお姉ちゃんにもらって読んだ。
メラトニンメラトニン受容体の生理的意義を中心としたおよそ70ページ。
いちばん興味深かったのはメラトニンによる催眠作用と体内時計の位相変位作用。
まず催眠作用についてだが、

夕刻にメラトニンを投与した場合には、比較的少量であっても夜間睡眠で睡眠潜時の短縮と睡眠効率の向上が認められる。一方、より高用量であっても就寝前に投与すると睡眠に影響が見られない。
23:30に投与した場合には、5mgであっても健常人の夜間睡眠に影響を及ぼさなかったが、18:00に投与した場合には、0.5mgであっても総睡眠時間の増加と睡眠効率の向上がみられる(p.170)


本剤(=ラメルテオン)の睡眠潜時短縮とプラセボでのそれの差は13.1分であった。この差はかなり小さいとの印象を受けるかもしれないが、その水準はプラセボベンゾジアゼピン製剤との差(10分)、ベンゾジアゼピンアゴニストとの差(12.8分)、抗うつ薬との差(7分)と比べて遜色ない。睡眠薬治験においてプラセボ効果がかなり大きいことを考慮すると、本剤の入眠効果は従来の睡眠薬と同程度といえよう(p.179)

p.170の記述はメラトニンでありラメルテオンではないのだが、ラメルテオンでも同様の現象が発生するとすれば由々しき事態ではないだろうか。
なにしろロゼレムの添付文書には用法・用量欄に「通常、成人にはラメルテオンとして1回8mgを就寝前に経口投与」としか書いていないのだ。
ロゼレムvds投与で効果がなかった場合、夕N投与に切り替えてみる価値があるということでないだろうか?
そしてp.179の記述。確かに治験では10分かそこらの短縮効果しかなかったとされるBZ系薬は、臨床では1時間単位で睡眠潜時を短縮することがある。
これらとロゼレムが同等の効果があるとすれば、武田が言っている「ロゼレムの効果は比較的弱いため、軽症患者への1st choiceで検討してください」というのは、話が変わってくるのかもしれない。
ただしこの時、p.170の「就寝前投与では効果が認められない」という記述とガチンコしてしまうのが気がかり。メラトニンとラメルテオンの差なんだろうか…?


そしてもう一つ、体内時計の位相変位作用について。

本剤を概日リズム睡眠障害に用いる場合には、位相反応曲線に合わせて就寝時刻以外の時間帯に本剤を投与する必要性が生じる(睡眠相後退症候群で位相前進を図る場合には夕方投与、睡眠相前進症候群では早朝投与となる)。しかし、この時間帯にラメルテオンを投与した場合、MT1受容体作用による強い眠気を生じる危険性があることは否定できないし、上に述べた用量の問題も重要となろう。(p.182)

このことを理解するにはメラトニンが覚醒/睡眠に対してどのような役割をはたしているのかを理解する必要があるのだが、ではぶっちゃけ、夕方や早朝何時頃に投与すればよいのかという話が以下に記述されていた。

DLMO(dim light melatonin onset:内因性メラトニン分泌立ち上がり時刻≒入眠2時間前)の1時間前から7時間前までの範囲では、より早いタイミングで投与した方が位相前進効果が大きいことが示された。DLMOの6時間前に0.3〜3mg*2を4週間にわたり投与した場合、DLMOでは3時間弱の位相前進が、覚醒時刻では2時間弱の位相前進が期待される。(p.191)

要するに夜行性となってしまったりして体内時計を進めたい場合、入眠時刻の3〜9時間前の範囲で、服用後に眠気が出ても支障がない最も早い時間帯を選んで服用させれば良いということである。
こういう患者の生活リズムを熟慮する必要のある処方ってのは、内科医には手に負えない気がする。
ロゼレムが発売になるときに武田の姉ちゃんが「副作用の少ない使いやすい眠剤として、ぜひ内科医の先生に積極的に使ってもらいたい」と言っていたのに対してオイラは「内科医は患者の生活リズムを聴取もせずに安易に眠剤を処方しすぎるから、できればあまり内科医に宣伝してほしくない」と答えたわけだが、概日リズム障害が出ている症例ではまさにそうした思いが強くなる。
まぁドクターに限らず薬剤師も、眠剤が処方された患者への指導や介入が全く足りていないと思っているわけだが。

*1:p.130くらいからp.200くらいまで

*2:メラトニン投与量として